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客業生産コンセプトが産業政策へ

消費者起点のものづくりは、すでに234年前のアダム・スミスの国富論第4編にも次のように示されている。「全ての生産の唯一の目的であり目標は、消費である。生産者の利益は、消費者の利益を促進するのに必要なかぎりでのみ、配慮さるべきである。この公理は完全に自明であって、これを証明しようとするのがばかげているほどである」と。
筆者の「客業生産」コンセプトは、アダム・スミスの示したこの経済学公理に基づいている。

現在、消費低迷の中で、ものが売れない、特に縫製工場のものづくりは仕事が中国に移されて、受注が減少し、工賃が低下して、極めて厳しい苦境の中にある。その上、円高、株安による日本経済への悪影響が懸念されており、円高で輸出企業の為替差損が増大し、株安で消費不振が一段と強まると心配されている。しかし、一方で厳しい経済情勢の中でも、消費者から特徴ある商品が強く支持され、販売を伸ばしている元気な企業も多数見られる。商品が売れないのは、はたして巌しい経済環境によるだけなのか。特に価格崩壊について、グローバル化により海外から流入する安価なモノが増え続ければ、日本企業はひたすら際限なき価格競争を繰り広げるしかなく、デフレスパイラルにはまり込むしかないのか。こうした問題意識の上に経産省が「消費者起点での産業・企業の発展のありかた及び関連政策の方向性」と題する報告書をとりまとめ、去る7月26日発表した。

経済産業省商務流通グループは、昨年末から消費者の動向、嗜好性について消費者に対し、かなり詳細に調査を行った。その結果、たとえば、商品やサービス選択時の消費者の「こだわり」のポイントについては、巷で言われているように、低所得世帯、乳幼児を抱える女性など低価格を優先する傾向が一部の消費者層で見られたが、総じて女性・高齢層を中心に信頼・安心などを優先しており、消費者全体で見れば、信頼や安心を低価格より優先していることが裏付けられた。また、消費者の課題は多様であり、特に、女性、中・高齢層、子育て世代について、「連絡すると、修理・交換・設置に来てくれる」といったサービス提供への二ーズが高いこと、地方在住の高齢者は日々の買い物に不安を抱えていること等が示された。

これは消費者について、実像を把握・分析することの重要性を示した一例だとし、経済産業省は、産業構造審議会消費経済部会の下に新たに設置した基本問題小委員会(小委員長:上原征彦明治大学大学院教授)において、我が国が真に成長を達成するためには、「消費者を起点」として考え直すことが不可欠であるとの認識に立って、消費者起点で望まれている産業・企業の発展のありかた及び関連する政策の方向性を検討し、最終報告書をとりまとめた。この報告書の内容を一言で言えば、消費者を起点として見れば、日本企業に発展の余地があるという明るい希望を示すことだ、と説明している。

筆者は消費者起点の生産について、12年前に「客業生産」と造語して、著書にもしているが、脱工業生産のあり方を具体的に追及してきた立場から感慨深いものがある。同報告書によると、企業と消費者との関係として、消費者と企業との間に意識の違いがあり、企業は消費者のニーズ把握において積極的な情報入手が不十分と指摘している。これまでの我が国の成長戦略は、ともすると、「消費者を置き去りにして」、企業を出発点とした考え方に終始している場合も少なくなかった。同報告書では、消費者を起点として、企業と消費者との協働(価値創造に向けての相互行為)により、経済社会が抱える課題の解決を図り、企業の内外の発展と国民生活の質的向上をもたらす新たな我が国の成長につながる可能性があることを提案している。

かねてから「客業生産」を提唱している者として、「客業生産」コンセプトが産業政策として論じられるようになったことを深く感銘しており、同時に誠に同感の至りと思っている。

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